＜これまでのあらすじ＞
収録は無事終了し、NHKをあとにします。今回の収録でのいちばんの問題児だったと思われ、スタッフさんには大変ご面倒をおかけしました。 |
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２２．よれよれの帰り道なのだった
代々木上原のホームに着くと、下りの急行がすぐに来たのでそれに乗る。
さっと席を取れば、座れないこともなかったのだが、あえて立つことを選ぶ。なぜなら座るとけん坊が寝てしまうのは必至だからである。
電車は来る時に乗ったものとは違い、地下鉄から乗り入れてきた車両であった。ゆえに窓が高い位置にあって、「お外が見えない」とけん坊は不服。「外、見たい、座って見たい」と言い出す。
しかし母の作戦どおり、すでに満席の車内。けん坊の座る席はない。なんとか頑張ってくれたまえ。
やがて眠気を誘われたけん坊は大あくびを連発する。立ってても寝そうな勢いである。しまいには「すわりたいー」とへにょへにょと崩れかける。こりゃいかん。
「電車おりたらパン食べようか、それともドーナツがいいかな？」「･･･どーなつ」
「ジュースも飲もうね、何ジュースにしようか。オレンジ？りんご？」「･･･りんごがいい」
けん坊の喜びそうなことを言って励ます。しかしそれも長くはもたない。
「もう、おりてのみたい、今、のみたい」とかゴネだす。しかし途中で降ろすわけにはいかない。時間がかかればもっと眠くなるし、もっとグズりだす。寝てしまってはどうにもならない。ますます家にたどりつけない。
そうだ、これはどうだ。
「これ、なーんだ！」と母のカバンから取り出したのは赤いミニカー。
昼間、オムライス屋さんでお子さまメニューを選んだ時にもらった、セットのおもちゃである。
さっそく手に取るけん坊。お、ちょっと食いついたぞ。
ビニール袋を破って出してあげると、そばの手すりや壁に走らせて遊びはじめた。座席で寝ているおじさんの頭のすぐそばを走らせたりして、ちょっとヒヤヒヤしたけれど。
とまぁ、これが功を奏して、なんとか降りる駅まで起きていることができたのだった。何でももらっておくものである。
改札を出ると、すぐ脇にあるベーカリーへ。電車の中で約束したとおり、パンやドーナツを一緒に選ぶ。
けん坊は眠くてよくわからなくなっているのか、「これ食べたい」「これも食べる」と次々指さす。「そんなに食べれないでしょー？」と突っ込みながらも、好きそうなものを３個ほどトレーに乗せる。母も選んで、合計５個。
あとは飲みもの。「これがいい」とパックのジュースを指さしたので、それを買った。
店を出てストローをさしてやり、飲ませながら歩く。けん坊はちゅうちゅうと音を立てて飲み、駅構内から出たか出ないかのところで、あっという間に１パック飲みきった。
少し元気が出たようだ。「何のジュースにしたの？」「･･･もものジュース」「おいしかった？」などと話しかけて疲れをまぎらわせ、何とか駅前のショッピングセンターへ連れて行く。
車に乗せれば、家まで運ぶことができる。ジュニアシートに座らせさえすれば、あとは何とかなるのだ。
これからまー坊をお迎えに行って･･･。時間的には大丈夫そうだな。けん坊は多分、途中で寝るだろうな。
立体駐車場を４階から１階まで、ぐるぐると下る。
ゲートから出庫して、ふとジュニアシートを見ると、けん坊はすでに寝ていた。早っ。 |
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